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[No.0185] 2000/9/20
No.0184「ドアーズ復刻盤ついにバラ売り」へNo.0186「ジミ・ヘンのボックス登場」へ

POP-SITE音楽批評
小津パロディの最終兵器登場!
T.M.Revolution
『魔弾〜Der Freischuts〜』

(c)2000 Antinos Records Inc.

作劇の手法に「対位法」ってのがある。どう考えても悲しい場面なのに笑える音楽を流したりして、狙ってる効果を増幅させるっていう手だ。たとえば映画『ゴッドファーザーPARTII』のラストはコルレオーネ一家が本当に悲惨なことになるんだけど、突然その直後に幸福だったころのコルレオーネ一家の団欒を描く(けっこう長い)カットが挿入され、その悲哀が強調される。つげ義春のマンガ『海辺の叙景』は、どうしようもなく暗〜い背景になぜか明るい台詞をバンバンかぶせ、その振幅が不思議な効果を上げている。

この手法を笑いにつなげる作家もいる。たとえば、手塚治虫の絵柄や作風を使ってモダンな不条理/ややエロ系のマンガを描く田中圭一なんかがそう。「絵もコマ運びも手塚っぽいけど、そもそも手塚はこんなのやんないよなあ」っていう内容、実に見事。

大御所の作風を使ってその落差を生かすっていう企みの元ネタに、小津安二郎監督の作品が拝借されることは珍しくない。映画やテレビドラマであのローアングルやカメラ目線ダイアローグを真似たショットを見かけることは珍しくないし(これはたいていが純粋なオマージュなんだけど、中には確信犯的な作家もけっこういる)、最近だとファミリーマートのCMでロドニー・グリーンブラッドのキャラクタが、いかにも小津映画風の背景をバックに登場したこともあった。白黒なのが妙におかしかったね、あれは。


(c)2000 Antinos Records Inc.
そして、「小津対位法」(と勝手に命名するけど)にとどめを刺す作品がついに登場した。それがT.M.Revolutionの新曲『魔弾〜Der Freischuts〜』のプロモーションビデオだ。

オレは西川氏が「HEY!HEY!HEY!」に出演した回はおそらく全部見てるし(っていうか毎回見てるだけだけど)、NHKのスペシャル番組なんかもたまたま見たりしていたが、この人の音楽自体にはまるで興味なかったし、この人のビデオっていうと「ビリビリに破けた服を着て、でかい扇風機で前から突風」くらいの印象しかなかった。

ところが、先日テレビのCMか何かで『魔弾』の2〜3カットを目撃してしまい、もうこれは明らかに小津対位法を狙った映像と直感。さっそくビデオを入手して見てみたんだけど、これにはもう参ったね。小津さんの映画に関してはぜんぜん素人なオレから見ると、完コピって感じ。

4分30秒の映像作品だけど、ちゃんとストーリーがある。「平凡な工場に勤める父親。その娘が家に恋人(西川)を連れてくるが、父親はそれを嫉妬。右腕をミサイルランチャーに改造して西川を攻撃、西川もロケットパンチで反撃するが、娘はその巻き添えで死んでしまう」という、本当にばかばかしい筋書きだ。娘が西川のために編んでいたと思い込んでいたセーターが実は父親の誕生プレゼントだったことに娘が死んでから気付く、というナイスなオチもついている。確かに至上のばかばかしさだけど、「家族という関係は流動し、持続しない」っていうテーマは小津作品と共通だ。

最初から最後までショットは当然のようにすべてローアングル。そして、対話はほとんどがカメラ目線。カメラの移動はいっさいなし。パンすらしない。一説によると、小津さんがいた当時の松竹は非常にひどい設備しかなく、おかげでさまざまなテクニックを使いたくても使えないという状況になり、その産物としてあのミニマルな作風が生まれたらしいんだけど、それをあえてテクノロジ過剰な現代に再現してみせるっていうのはかなり面白い試みだと思う。

小津作品『小早川家の秋』や『秋刀魚の味』に出てきたものとそっくりのスナックも登場する。その前に、銀座ネオン街を象徴するカットが挿入されるんだけど、こういうカットも小津作品ではおなじみ。細かいけど、最初のカットで出てくる俯瞰の町の向こうには、今どきまず見かけない「三本煙突」が……。娘の部屋の壁にボクサーのポスターが貼ってあったり、アサヒビールのラベルがいかにも当時っぽいモノだったりと、ディテールに関しては枚挙にいとまなしって感じだ。よくここまで凝れたもんだよ。


(c)2000 Antinos Records Inc.
本作が並みの小津パロディと違うのは、これがミュージックビデオだということだ。この曲『魔弾』は「高速デジタルビート」+「キャッチーなメロディ」+「下世話な歌詞」ってな感じで、小津作品のテンポとは程遠くノリのいい曲。台詞のかわりにT.M.の曲がガンガン流れることにより、映像が醸し出す小津イズムは弁証法的に破壊され、そこからえもいわれぬ笑いが発生するのである。

本作に登場するキャラクタたちは、すべてこの曲の歌詞に合わせて口を動かす。つまり、曲全体の歌詞を、それぞれのキャラクタが一部分ずつ口ずさむという格好だ。しかもドラマのほうは、曲のBPMの1/8くらい(推定)のスピードで淡々と進行してゆく。それぞれのキャラクタが喋る歌詞のパートを脚本の時点で確定しておかなきゃいけないわけだから、これはさぞかし面倒なことだったろうね。カットをちょん切って編集したら歌詞がつながらなくなっちゃうわけだし。

ちなみに音声を消して見てみると、小津風の地味ぃ〜で淡々とした映像作品としてとても楽しめます。後半になってお父さんがヒジからミサイル発射したりしてブチ壊しになるけどね

説明的なフラッシュバックがちょっと多いとか、小津作品ではちょっと見ない俯瞰ショットがあったりとか、父さんが笠智衆に似てないとか(娘さんは原節子と岩下志摩を足して2で割って10倍に希釈したような感じ)、西川氏の化粧はちょっと'50〜'60年代っぽくないとか、小津作品独特の「台詞がかぶる編集」が再現されてないとか(これは構造上ムリだね)、小津パロディとしてはけっこう惜しいところもいくつかあるんだけど、ミュージックビデオとして成立させつつもここまで出来たというのはスゴイ! の一言に尽きるね。蓮實重彦とか竹中直人に本作の感想をぜひ聞いてみたいところです。

ミュージックビデオといえば、昨年はビョーク&クリス・カニンガムのロボ浄瑠璃『All Is Full Of Love』にトドメを刺された感じだったけど、本年の私的ベスト1は何つったってこの『魔弾』だね。小津とT.M.、この組み合わせを考えただけでも大したモンだと思うよ。

しかし、これほどよくできた映像作品だというのにもかかわらず、オレはこれを何度も見たけどけっきょくシングル『魔弾』は買っていないし、このビデオを見た人が小津作品を借りにレンタル屋へ走るっていう光景も想像しづらい。うーん、世知辛い浮き世((C)椎名林檎)。


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