いきなりで何だけど、このゲームは本当にすごい。この面白さや完成度の高さ、そして内容の充実っぷりは、リメイクでもリマスターでもない新作の2Dアクションゲームとしては、まさに異例である。本作品をご存知ない方は、まず公式サイトに漂う豪華で楽しげなフンイキをご覧頂きたい。
この『クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶオマケの都ショックガーン!』は、ジャンプ+攻撃というオーソドックスなスタイルのアクションゲームであるが、1980年代にヒットした数々の秀作アクションゲームを彷彿とさせる凝った仕掛けのステージが多数収録されており、難易度もかなり高めに設定されているため、かつてカプコンやトレジャーのようなメーカーが作っていた辛口アクションゲームが好きな人にはたまらないはずである。さすがはインティ・クリエイツ。個人的には『ロックマンゼロ』よりもこっちの方が面白かった。
プレイ中に思い出したのは、カプコンの『大魔界村』(1988年)や『ストライダー飛竜』(1989年)といった傑作である。もしこの作品が1988年ぐらいにゲーセンにあったら、さぞかし高いインカムが稼げていただろう。多数存在するステージやボスキャラクターはどれもしっかり作り込まれており、それぞれに存在意義と攻略方法が設定されている。要するに「無駄が無く密度が高い」という事である。ただ難を言えば、道中のザコがあまり倒し甲斐がなく、知性に欠ける奴ばかりなのがちょっと残念。
ゲームとしての最大の見どころは、何と言っても自機であるしんちゃんのコスプレであろう。ビームが出せるアクション仮面のコスチューム、泳ぎが得意なペンギンのコスチュームなど、場面に応じて様々なコスチュームに切り替えてプレイすることになるんだけど、どのコスチュームにも突出した特徴と明確な使いどころが設定されているのがとても良い。ゾウのコスチュームを着ると、ゾウの鼻でちょっとしたワイヤーアクションを楽しむ事もできたりする。ただ、序盤はコスチュームの数が少ないため、アクションも地味になりがちなのがちょっと残念。あと、ボスの目の前だろうと水中だろうと、しんちゃんがいちいち服を脱いでパンツ一丁になって着替えるところが、何度見ても本当におかしい。
グラフィックは非常によく描けている。本作品は、ドット絵によるゲーム本体と、アニメ版「クレヨンしんちゃん」的なアニメ塗りキャラクタ+背景美術によるストーリーデモシーンによって成り立っているが、このどちらのグラフィックもとても出来が良い。前者は、ドット絵ながらも原作の世界観を生かした出来になっており、しんちゃんをはじめとするキャラクターがとてもうまく表現されている。後者はおそらくアニメ版の作画を手がけている方が担当していると思われ、アニメそっくり。なおかつ両者の親和性はとても高く、「取ってつけたようなストーリーデモシーンが唐突に始まる」という、キャラクターゲームにありがちな違和感がまったく無い。
このストーリーデモ、何とフルボイス。さすがにサンプルレートは低めだが、アニメ版の声優さんが総出演して全部のセリフをしゃべるのには本当に驚く。エンディングではボーカル入りの曲がフルコーラス流れるし、一体音声にどんだけ容量を割いているのか気になるところである。
さらに、原作でおなじみカスカベ防衛隊の仲間や大人たちが「カード」として登場。それぞれのカードには「敵の動きを止める」「体力を回復」といった特殊な効力があり、ゲーム中に使用することができる(ただし一度に持てるカードには限りがあり、ステージ間で「デッキ」を組む必要がある)。よほど探さないと入手できないカードもあるため、カードのコンプリートにハマる人はハマると思う。私はあんまり興味が持てなかったけど。
一方、ストーリーは「堕落した大人たちをしんちゃんたちが救出する」という、例のあの映画で神話化したとすら言えそうな黄金パターンに沿って展開する。今回は、食玩テーマパーク「ショックガーン」に来訪した野原夫妻をはじめとする大人たちが、食玩フィギュアに魅了されてテーマパークに幽閉されてしまい、テーマパークの支配者であるフィギュア魔人を倒して大人たちを解放するためにしんちゃんたちが立ち上がる、というお話になっている。
例のあの映画では「ノスタルジー」「昭和」「万博」といった「大人なら誰しもハマる」という説得力を持つ強力なモチーフが、「子供が大人を救出する」という世代間の物語を見事に補強しており、「映画」的なスケール感にも貢献していた。それに対して今回のモチーフは「食玩フィギュア」という「いい大人がハマってたらちょっと情けない」ものだが、これが本来の「クレヨンしんちゃん」のナンセンスマンガとしての本分にピッタリ一致している。無理に背伸びをしない、間尺に合ったばかばかしさが存分に発揮されており、実にいい感じである。
とはいえ、単なるナンセンスに終始しているわけではなく、後半でショックガーンの魔人たちを追いつめて倒して行くシークエンスでは、悪役であるフィギュア魔人たちの自意識(「トイストーリー」前半のバズが抱いている例のアレ)と彼らの哀れな末路が描かれて大いに盛り上がり、最後はちょっと泣ける展開も待っている。このゲームの広告を見ると必ずどこかに「アニメの監督が制作に関わっている」という文言が入っているが(「伝説を呼ぶブリブリ 3分ポッキリ大進撃」のムトウユージ監督を指している)、そこまで小うるさく喧伝しているだけのことはあって、こういったキャラクタゲームのストーリーとしては非常に出来が良いと思った(このゲームと同じ設定のテレビアニメが先日放送されたが、ストーリーはかなり異なっていた。どちらかと言えば、ゲームの方がストーリーとして良く出来ていたと思う)。
このゲームは、「クレヨンしんちゃん」が多少なりとも好きな人なら間違いなく楽しめるし、「クレヨンしんちゃん」に興味が無いとしても優れた2Dアクションゲームとして楽しむ事ができる、希有な作品だと思う。ビデオゲームの黄金期であった1980年代へのオマージュを感じさせてくれる、とても良いゲームだった。アニメ映画のマーチャンダイズの一環としてカスみたいなアクションゲームを垂れ流し続ける(特に海外の)ディベロッパーやパブリッシャーは、是非ともこのゲームをプレイして猛省して頂きたいと思う。最近は任天堂すら徐々に撤退ムードである「スプライトによる2Dアクションゲーム」という領域の可能性はまだまだ残されているかも知れない、と本作品をプレイしてみて思った。
しかし、子供たちが遊ぶ任天堂ハードでしんちゃんの下ネタの威力は強すぎやしないか。ゲームキューブの『バイオハザード4』でゾンビの頭をショットガンで吹っ飛ばすよりも、GBAの画面に表示される「しわしわマンモス」って文字の方がよっぽど過激じゃないかと思った。
(モリサワジュン)