今回は『プロジェクトハッカー 覚醒』について書かせて頂こうと思う。このゲーム、私はあのカッコいいテレビCMを見て衝動買いしてしまうまでその存在すら知らず、ただ漠然と『脳トレ』感覚でハッキング(クラッキングと言った方が正しいんだろうけど、本稿ではハッキングで統一します)のトレーニングができるツール系ゲームなのかなーと思っていた。そんなわけないのに。
で、実際プレイしてみたらやっぱりそんなわけなかった。『プロジェクトハッカー 覚醒』はツール系ゲームではなく、けっこうオーソドックスな推理アドベンチャーゲームであった。プレイヤーは、IT犯罪を捜査する国際機関「GIS」の捜査員になり、警視庁の刑事と手を組んでIT犯罪事件の解決にあたる。「偽札の売買取引事件」や「企業の口座から40億円の引き落とし事件」などの中編シナリオがいくつも入っており、これらを順に解いて行く。主人公がGISの一員になるまでのチュートリアル的なシナリオも収録されているので、導入はとてもスムーズだった。
本作品がいわゆる「コマンド総当たりで解けるアドベンチャーゲーム」と異なるのは、ゲーム中に挿入される「ハッキング」である。捜査の手がかりが入ったパソコンへのログインやロックのかかった扉を開けるためのパスワードを探したり、ウイルスや侵入者などと戦うミニゲームをクリアすることで、ストーリーが進行するようになっている。
謎解きのヒントを知りたい時は、ゲーム中に登場するパソコンを使ってWWWにアクセスし、ウェブサイトを見て調査することが出来るようになっている。これが結構すごい。本物のWWWではなく、架空のウェブサイトがたくさん入っているんだけど、どのサイトも(総ページ数は少ないけど)ちゃんと作られており、とても感心した。あらかじめ決められた文章しか送れないものの、メールによって他の捜査員などと情報のやりとりを行うことも出来るようになっている。IT犯罪捜査員の雰囲気満点である。
しかし、残念なことにストーリーが全然リアルじゃないんだ。正直言って全体的にまったくリアリティがない。リアリティの欠落した「ウォー・ゲーム」という感じがする。現実社会にリンクしているスケールの大きい物語を支えるためには、大なり小なりのリアリティが無ければいけないと私は思うが、本作品にはそれがかなり不足している。
まず、随所に挿入される「ハッキング」が非常に現実味のないものばかりである。例えば、「悪のアプリケーションを削除するために、アプリケーションを保護するファイアウォールを4つ破壊せよ!」みたいな感じ。アプリの保護に使われているのがなぜ「ファイアウォール」? という疑問もあるが、それ以前にアプリ一つ削除しただけで安心しちゃうハイテク捜査機関というのもどうなんだろう。ネットや各種媒体経由でコピーが世界中に存在していると考える方が自然だと思うんだけど。さらに、ハッキングシーンの数々がどれも過剰に「サイバー」「ハイテク」を記号的に強調したアクションゲームで、どう見ても現実味に乏しい。子供はどうだかわかんないけど、パソコンを普段使っているような人にはちょっと厳しいと思った。
それに、発生する事件がどれも絵空事的というか、現実にはあんまり無さそうなものばかり(飛行機乗っ取りハッキングとか、医療コンピューターへのクラックで医療事故多発とか)。あと細かいところでは、「WWWに検索エンジンがなく、昔のYahoo!みたいなポータルサイトしかないので、そこからトップダウンに情報をたどって行くしかない」とか「IT犯罪なのに、なぜか捜査一課の刑事(銭形警部風、パソコン音痴)が担当」とか「捜査令状なしで捜査対象となる住居に入ったり人のパソコンにログインしたりデータを消したりする主人公」とか、違和感を覚えるところがそりゃもう多々あった。
でも、それは「任天堂が発売する、子供も遊ぶであろうゲームソフト」である以上は仕方の無いことであり、上記の「リアリティの欠落」はすべて意図的なものだと思われる。「ニンテンドーDSブラウザー」開発陣のインタビューを読むと、任天堂がいかにセキュリティに対して神経質になっているかが良くわかる(Cookieは電源切断で消去、プログラム保存機能なし)。そんな任天堂が、「IT犯罪のリアルな実情と手口」をゲームによって子供たちに啓蒙するわけにはいかないだろう。本作品には、リアルになりそうな要素を苦心して揉み消しているような雰囲気さえ感じた。
本作品は、「IT犯罪」を題材にした一種のファンタジーであり、確かにファンタジーとしてはそこそこ面白いけど、ここ最近のIT犯罪のリアルな実情をゲームで体感したい、というニーズにはまったく合致しないので、そういうものを期待している方にはあまり向かない作品であると思った。個人的には、もっとリアルでヒリヒリした「ナニワ金融道」みたいなストーリーにして欲しかったんだけど、さすがにそりゃ無理ってもんだろう。
ただ、一般常識として役立つ点は色々あった。わからない事があったらウェブで調べましょうとか、その時はちゃんとメモを取りましょうとか、初対面の人と会う前にはフルネームを覚えておいた方がいいですよとか、お子さんが社会に出て就職する前に頭に入れておいて損の無い教訓がけっこう散りばめられており、そういうニーズには合致すると思った。さすがにそういう動機で本作品を購入なさる親御さんはあんまりいないだろうけど。
プレイする前、私はこの作品に対して「リアルなハッキングの現場の再現と解説」を期待していた。京都府警が使ったWinnyユーザー摘発のテクニックや、DoS攻撃、バッファオーバーフロー、ファイアウォールを越えるアクセスなどといった、「聞いた事はあるけど実際はよくわかんない」事象について、『脳トレ』感覚で楽しくわかりやすく学べる、みたいなやつ。どなたか作ってくれないだろうか。「あなたのハッキング年齢は25歳です!」とか出たりして。よくわからないが。
(モリサワジュン)